ひろもの。




 目が覚めると、見覚えのない天井の装飾が一面に広がっていた。
 部屋の中は薄暗く、もっとはっきりと見ようとして躯を起こそうとすると脇腹に痛みが走った。

「大人しく寝ていることです。骨に異状はない。」

 最低限の灯の中で、書簡と向き合っている人間が振り返って言った。不機嫌な顔付きは生来のものだろうかと、些か失礼なことを考えながら己の躯を検めると、やや大げさなくらいに包帯が巻かれ、怪我をしている脇腹のあたりは固定されていた。

「このような場合は名乗り合うべきですかな。私は…」
「生憎、無駄なことに労力を割くことは好んではおりませんので。」

 言い捨てると、再び背を向け書簡に向き直る。今何更か、聞けば答えは返ってくるかもしれないが。

「三更もすれば日も昇る。その頃合を見計らって、貴公を国境に置いて来ますからご心配なく。」

 狩猟で射た鳥獣を同じ扱いか。忍び笑いを零せば、怪我に響いて悶絶することになった。肺腑に収まった空気が膨張したまま吐き出せぬ程の痛みは、怪我の軽さとは比例していなかった。
 気が付けば、胸を掻き毟ったことによって肌蹴た着物を律儀に着せようとする手があった。

 肉厚な武官のものではない、骨ばった指先。自身の明らかに文官然とした手の甲と見比べた。



「こんな深更まで仕事とは大変だ、手伝いましょうか。」

 殊更に陽気を装う口調だった。

「いいから黙って、早く眠って頂けませんか。」





「黙らせる最良の方法はただ一つ、とご存知でしょう。」



 どこか昏い声音に変化した言葉に、着物を整えさせていた手がびくりと止まる。不機嫌な顔付きは、一層眉の谷間を深くしたが、目まぐるしく困惑した表情へ、そして、一瞬泣きそうな表情が走る。

 ―――その感情の揺れは誰のためのものだろうか。

「……それは困りますゆえ。」

 何故、とは問わなかった。
 表情はいつの間にか不機嫌さすら抜けた漂白されたものとなっていた。

 特定の個人のために感情が揺れることを忘れて久しい身には新鮮な動きだった。それとも、この身から流れた血の分量だけ底に溜めていた自身の感情が一時蘇ったからこそ、その動きを捉えることができたのか。
 否、それは只の弱さだ、己自身の。この将に自分と同類の弱さを認めようとしている程に、まだ孤独に飽く訳にはいかぬのだ。

「呉の薬はよく利く。戯言が言えるくらいに酔うほどに。」

 己の思考を断ち切るように、動けぬ怪我人は、眠れぬままに目を閉じた。
 ひとり、取り残された将も夢醒めのように我に返り背を向けると、三度書簡に目を落とした。











 陸羊と言い張っても良いですか。かなりありえない状況なんですが、そこは女性向けゆえに許されるはず!(許されません。)自分の中で女性向けと一般向けの基準が曖昧なのですが、一応自分がやましいいいい!と思ったら女性向けになります。(俺様基準ですか。)そういえば、このかっぷりんぐもマイナーらしいですね。なぜだ……………。(08.04.07)