うめのきせつ。




 甘興覇が通り過ぎた後、普段とは異なる何とも甘い香りがした。

「また女を変えたのか。」

 彼の反応はごく一般的だった。

 殺人癖も酒癖も女癖も、魏蜀に比べれば幾分柄の宜しくない気質の新しい国とは云え、この男の向こうを張る人間はそういない。
 典雅な趣味を持たないことくらい、餓鬼でも知っているからこそ、褥を同じくした女の移り香だと思われても致し方ない。

 日頃の素行がものをいうのだ。―――しかし。

「あ?昨夜は独りだったぞ。珍しく佳人のような月だったからな、庭でひっそりと呑んでいた。」
「は?誰の噺だそりゃ。」
「白梅も八分咲きだし、ああいった枝振りを柳腰って云うんだろうな。梅の香も佳し、酒も旨くなるってもんだ………あん?」

 顎を撫でつつしんみり語る甘興覇を前にして、仰け反った彼を誰が責めることができると言うのか。

「おぉい、興覇がとうとう耄碌したらしいぞォ!」
「ンだと手前ェ、人が風流を語って聴かせりゃどういう意味だそりゃア?!」

 所詮、信じてもらえないのも身から出た錆。




おわれ。








 「彼」が誰かはご想像にお任せします。
 梅についてあつーく語る甘興覇でもいいじゃないですか、ねえ。


 もともとウェブ拍手用に書いたコネタだったのですが、うまくページ構成が出来なくて断念しました。でも折角書いたし…というみなとの貧乏性ゆえにリサイクル。(07.03.11)