※コネタです。時代考証も何もあったものではありません。つるっと寛大なお心でお読みいただくか、暑さでやられたみなとのあたまを哀れんでやってください。
「………怒っているのか?」
「何のことでしょうか。」
「……………怒っているのだな。」
「…さっぱりお話されていることが分からないのですが。」
「そうか、やはり怒っているな。」
「………申し訳ございませんが何を仰っているのでしょうか。」
「怒っているのだろう。」
「……………。」
「……もしや、怒っておらぬのか?」
「……。」
「なんだ、怒っておらなんだか。さすがは穏やかさを謳われる……って、おい、景倩?」
ぎく、と司馬子上が己の失策に気が付いたところで後の祭りであった。
激怒した荀景倩が衣を払ってさっさと部屋を後にする。とりあえず、暑くて気が短くなる季節に「あれそれ」で通じる主語のない時代劇つぅかぁ悪役ごっこは止めておけ司馬子上。
只でさえ冗談の通じにくい荀景倩の怒りが解けるのに一ヶ月かかったという噂が流れた。
了
解説が必要な小話を書くな。…すみません。司馬子上は荀景倩をダシに二回、相手の人物の方が上回っている!と評価しています。なので、いつも引き合いに出して怒っているんじゃないかと戦々恐々としているといいですよ。みなとのなかでは司馬子上はちょっぴり小心者イメージです。ですが、荀景倩は悪評なんて今更だしねと結構淡白。(それもどうなの。)だからくそ暑い中仕事の邪魔をしてまで一人合点をしている司馬子上にマジギレしてるといいです。
早朝から開かずの間であった軍議がお開きになったのは正午過ぎだった。
例年に増して酷暑の季節に甲を着込んでいる将軍達も、流石に少々疲れが窺えた。
廖元倹が守衛の部隊長を手招きする。
「馬鹿二人がまだやり合っているから、餌と水を運んでやってくれ。ああ、室の扉は全部締め切ってやったから、音を上げるのがいつもより早いことを願うばかりだな。」
長大な溜息を吐きつつ、廖元倹は部隊長の肩を軽く叩くと、草臥れ切ったように府から立ち去った。
兵士達の背後、隙間なく閉じられた扉の向こうから、絶え間なく言い争う二人――姜伯約と張伯恭――の声が聞こえてきた。
部隊長:「さて。(廖将軍も面倒なことを…。)とりあえず厨房からお二人の御食事を運んでこなければ。兵士甲、行って来い。」
兵士甲:「は!……お持ちしました!では!」←新米。
部隊長:「って、お前が持っていくなあああああッ!」←兵士甲、羽交い絞め。
兵士乙:「おい新米、そんな命知らずなことをしちゃいけないな。触らぬ神に祟りなし、お前、物音一つ立てず、且つ、あの二人に気配を悟られず、この室内に入れる自信あるか。」
部隊長:「(扱いが人外だな…。)将軍方の軍議の邪魔にならぬよう細心の注意を払わなければならぬからな。」
兵士乙:「只でさえ殺気立ってますからねえ。勘付かれたら即斬殺されてもおかしくないわな。……すんません、俺ら守備兵の存在意義って何ですかね……。細作も暗殺もできないと思うんですけど、怖くて。(遠い目。)」←動物並みの嗅覚を持つ上司を持つと大変です。
兵士甲:「そんな、姜将軍に勘付かれないなんて不可能ですよ。どうすればいいんですか。」
部隊長:「案ずるな。その時の為の兵士丙!」
兵士丙:「ほっほっほ。了解しましたぞ。」←退役寸前。
兵士甲:「………だっ大丈夫なんですか?」
兵士乙:「まあ聞き耳立ててろ。」
ぺたぺたぺた。
かちゃ、がちゃんかちゃん。
ぺたぺたぺた。
兵士甲:「なんか…めっちゃ音立ってるんですが……。」←うろたえている。
兵士丙:「はぁ、ただいま戻りましたよ。お二人ともあれでは熱中症が先か、脱水症状が先か、という感じでしたがねえ。」←腰を叩きつつのほほんと。
部隊長:「ご苦労さん。……兵士甲、ここまで殺気もなくお花畑な雰囲気をかもし出せば、姜将軍とて気にはしないということだ。」
兵士甲:「なるほど!その極意を教えてもら」
兵士乙:「あーほう!兵士としては使い物にならないんだからなこの特殊技能は!」
結局、二将軍が室から出てきたのは日が暮れてからだった。今日も老将軍達は元気です。
了
当時の軍の組織構成が分からないので、勝手に部隊長言ってます。ごめんなさい。部隊長の胃に何回潰瘍ができていたかと思うとちょっと涙。
「はあっ?なんで文季連れて来ないんだよ。てめえの不機嫌面だけでこの暑さが紛れると思ってんの?」
炎天下、門前に立っている来客に、傍若無人に振る舞える人間はそういない。まして、来客は呼び出された側である。
「私を呼び出すのだから、当然お前が文季が来るよう手配するのが筋だろうが。ほら、さっさと使いを出さんか。」
「えー、めんどくさい。それにこの炎天下だぞ?使いに出される方の身になれよ。お前がちょいっと行けばいいだろ、蘭石。それまでウチに入るのは禁止な。」
「ちょっと待て。お前の基準は何かおかしいだろう!……ああっ!もう暑いわ!入るぞ!氷室も用意しているんだろうな!」←切れた。
「ふざけんな!礼儀もなしに土足で入るな!」
「貴様に礼儀など必要なかろう!」
「……やあ、奉倩、蘭石。君たちは相変わらず元気だねえ。」
いざ掴み合いと子供の喧嘩に落ちる寸前、柔和な声が割って入った。
「どうしたんだ、文季?」
「いや、なんというか、虫の知らせっていうことかな…。」
目を白黒させている傅蘭石の細君が後の惨事を予期して、至急の連絡を寄越して来たとは流石に口にできない裴文季であった。
了
荀奉倩・傅蘭石・裴文季は季節問わずこういったやりとり繰返してそうですけどね…。何かとつるんでいる三人です。
軍司の徐胤は常に気を抜くことが許されなかった。
都督荊州諸軍事のお守り警護は楽ではない。的は今日も今日とて徐胤らの目を盗んでずらかったようだった。
「従事中郎!鄒殿はこちらに居られるかっ!!」
「そんな大きな声を出しなさんな。扉という扉は開け放っているから聞こえているよ。」
袖を捲くり上げ、扇でばたばたと胸元に風を送っていた鄒潤甫が振り返った。真っ赤な顔をした徐胤が飛び込んで来たおかげで室温が幾ら上がったか考えると顔を顰めた。
「また将軍に一本取られたんだね。茶でも飲んでいくかい。」
「そんな暇はありません。お心当たりはございませんか。」
「(その生真面目さが将軍の悪戯心を刺激しているんだけどねえ。)さあねえ、山に洗濯に行ったか、川で芝刈りでもしてるんじゃない?」
ずばんっ!
何の罪もない茶器が真っ二つにされた。徐胤も暑さでとっくに臨界点を越えていたらしい。
ああ、勿体ない、ときれいに割れた茶器を拾いながら鄒潤甫が恨めしそうな目をくれる。
「あのねえ、君も耐えられないこの暑い最中に、山に登れるほど将軍も健脚ではないと思うけどね。」
一刻後には捕獲されたずぶ濡れの羊叔子が、徐胤に首根っこを掴まれた姿が目撃されたとか。
了
徐胤は字が不明です。残念…。徐胤と鄒潤甫が同時期にいたかどうかは不明です。軽くスルーして下さい。というか、羊叔子は何をしてそんな水も滴るいい男に。川の浅瀬で居眠りしていたということでもいいですか。(よくない。)
「公奕、相談があるんだが。」
「どうした?」
「あいつら二人、そろそろ岩に括りつけて長江に沈めていいか。」
みーんみんみんみんみんみん。
沈黙。
じーわじーわじーわじーじーじじじじじ。
「……あー子明、とりあえず休暇を主上に賜ってお前も頭を冷やして来い。あと、このくそ暑い時に過度にお人好しを発揮するんじゃない。」
幕舎からは元凶二名の殺気は感じられなかったが、周りで囃す声と賭けが佳境に入っている気配が伝わっていた。
了
二人とはもちろん甘興霸と凌公績です。いつも呂子明は甘興霸を庇っていたそうですが、たまには殺意を感じてもおかしくないと思いますよ。なんていうか、呉の都督たちが短命なのは、外交面もさることながら、自軍の統制の苦労が五割ぐらいはありそうな気がしないでも。誤解でしょうか…。
荀文若はそれはそれは優雅に微笑んでいた。
葬式顔と揶揄される表情も今だけは慈母のようである。
では、真夏の最中だというのに、なぜこの周囲だけ涼風を通り越した冷風が感じられるのかと曹孟徳は小柄な身体をさらに縮こませた。
「……怒ってはおらぬのか。」
「当然ではございませんか。」
嘘だ、今、手にしている竹簡からみしっと音がしたぞ。
「どこぞの司空殿が陛下の周りにいる爺ィ共が喧しいからと雲隠れされた挙句に私が代わりにご説明申し上げましても、たかだか二刻程の時間が浪費されるだけのことですからね。大して苦にもなりませんとも、ええ勿論でございますよ?」
相変わらず青筋一つ立てず、微笑みながら一息に述べ立てる。しかし、言葉の温度を表すなら、今は絶対零度に間違いはない。
「まあ、多少の意趣返しは許されて然るべきと存じますが。……おやおや、そんな青い顔をされなくても児戯のような可愛らしいものですよ。」
「蝉の声は清音と申しますし、百匹くらい捕まえて寝室に放てば性根が清らかになること間違いないでしょうねえ。ああ、妓楼に出入りするほどお暇なようですし、私が今年の作柄を確認することも兼ねて長期の視察に出ている間すべての業務を回しても問題無さそうですし。勿論お土産は持って帰りますとも。近年各地で香の種類が豊富になっているとか。沢山買ってきますから扉を閉め切ってまとめて焚き染めましょうね。どんな新しい香に変質するか楽しみでしょう。まあ、視察結果如何によっては前線への兵糧供給は止めさせて頂きますので司空の素晴らしい頭脳で善処してくださいね。そうそう、司空が街中を歩いていても気が付かないというのは下々の吏員にとって大変不都合でしたね。せっかくの特徴あるお顔なのですからそろそろ似顔絵をちゃんと配布し徹底的な周知を図らなければ。……え?いやですね、脱いだ沓を池に投げ込むとか、まさか沓の中にアブラ虫やクサ虫を溢れるほど突っ込んで素知らぬ顔で元通りに置いておくなんてするわけがないじゃないですか。竹簡に蛇や蛙を仕込むなんて、私にはとてもできない芸当ですよ、ねえ?」←息継ぎなしでなめらかにお読み下さい。(無理。)
柔らかな笑顔は深まっているが、荀文若の手には、竹簡だったもの、の残骸しか残されていない。いつの間にか木っ端微塵に音もなく握り潰すとはさすが令君。
「すまなかった!だからどれもしてくれるなっ!」
お父さんの方が怖かった。
了
令君ならもっと怖いことをさらさらと言ってのけると思うのですが、みなとのあたまではこれが限界でした…。何かおかしいのが混ざっているのは気にしない方向で。最初はマヨネーズとか言っていたんですから!(なぜ。)
暑くてご機嫌斜めな人たち、が一応テーマでしたが、みなとは好きな人物の扱いがひどい気がしてきました。(気付くの遅い。)蔡文姫が入らなかったのが残念です。(07.09.24)